〜鬱におすすめの音楽〜
家のすぐ脇にある電線に雀の群れを見つけたので、食いそびれてカピカピになったいつかのパンを急いで台所に取りに行き、細かく千切って庭に撒いてみたけれど、途端に雀達は踵を返し何処かへ行ってしまった。
残されたのは、塵となったパンクズと妙齢の女、そして吐き気を覚えるほどの青い空。
駆け抜けるぬるい風が私のねじくれた毛髪と無様に散らかったパンを攫う。
キャハハハ、と先ほどまで聞こえていた裏の子ども達の笑い声は、母親らしき女の口汚い一喝でぴたりとやんだ。
しずか。静寂。
これが日常。私の、いつもと変わらない、日常。
だけど違う。
前とはもう、違う。
鬱を境界線にして、それ以前と以降で景色が変わってしまった。
例えば、かつて何の考えもなしに「綺麗だね」と笑って言った青い空。
今じゃ仰ぎ見ても無感動で。そればかりか、その向こう側を見ようとしている。宙に帰化したらどうなるのだろうか、と真剣に考えながら。
例えば、かつては「もうすぐだね」と期待していた子どもの姿。
今じゃおばけなんかよりもよっぽど怖い。思い出して胸がざわざわするから、私は耳と目を閉じ口を噤む。
もうあの頃の私はいないのだ。
ここには傷口を必死で抑える自分がいる。
剥き出しになった神経。
そこに触れるもの、何もかもが痛い。
呼吸をするのも困難で。
唯一心がフラットに戻れるのは、音楽を聴いている時くらい。
だけど明るい曲は疲れるから、ひたすらに暗い曲だけを選びとって。
そうね、洋楽ならノイバウテンとか、レディオヘッドとか、ビリーホリデイとか。
でも、一番よく効くのは邦楽。
歌詞の意味を噛み締めながら聞くと没入感が増す。
歌手は、メンタルヘルス系の歌手を選ぶと良い。
油は油に溶けるように、似た者同士はよく馴染み融和するから。
おすすめは
山崎ハコ
「望郷」
やさしいと思ってもみんな他人さ
「気分を変えて」
ゆううつな毎日をどうしよう
歌をきいても酒をのんでも直らない
鬼束ちひろ
「私とワルツを」
それでもなぜ生きようとするの
何も信じられないくせに
そんな寂しい期待で
「This Silence is Mine」
Cocco
「風化風葬」
悲しみ愛より深いのはだあれ?
生まれ来る風に吹かれ泣いて
「遺書。」
その腕で終わらせて
そらさずに最後の顔焼き付けて
見開いた目を優しく伏せて。
武満徹
「死んだ男の残したものは」
Lily Chou-Chou
「共鳴」
生きていくためだけに
生まれてきた
他の意味があるの
(〜ここからは一歩間違うと引っ張られそうになるので閲覧注意〜)
「飛びます」
一番大切なかけがえのないものは
おそらく今息づく自分の命でしょう
「いけない子」
もう是以上無い程
汚れた哀しみに押し潰されそう
結局
うまく気分を晴らした者が勝ち
それができないなら
バイバイ