zabeblogのブログ

4度の流・死産の末、離婚したバツ2女の日常

胎児水腫となって死産した話⑩

前回のお話

14W 喫驚

8月26日 

仕事帰り、病院へ行くと待合室はガラガラ。患者は私ひとりだけだった。
今日はツイているな、と心の中でほくそ笑みながら受付へ向かう。
すると、受付カウンターに初めて見る、恐らくまだ入ったばかりであろう若い女の子が鎮座しており、私を見るなり「今日はどうしました?」とぶっきらぼうに尋ねてきた。ここの病院の受付は愛想のないコばかりなので、私は、今回もまたすごいのが入ったな、と感心しながら「悪阻がひどいので診てもらいに。」と端的に来院理由を述べた。そしたら彼女は何の説明もなく、いきなり「はい、これで取ってください。」と乱暴に尿検査用の紙コップをカウンターに置いた。
私は、彼女のあまりの粗雑な対応に驚きつつも、言われた通りトイレに入り尿を採取する。
しかし、どういうわけかこういう時に限って、出ない。必死で力むも、ほとんど出ない。仕方がないので、一応出た雀の涙ほどの量を提出し、診察を待った。

「ケトン体が出てますね。妊娠悪阻です。入院できますか?」
あんな少量の尿でもちゃんと検査ができることに驚くと同時に私は狼狽えた。仕事のことが脳裏をかすめたからだ。入院となれば、仕事を少なくとも数日は休まねばならない。だがそれは困る。人手が足りない職場なので、そう簡単には休めないのである。
「ああ、、あの、、、入院となると会社に報告しないといけないので、少し待ってください、、、。」
そう言いながらも私は頭を抱えた。あの、キツイ女上司に何と言えば良いのか。彼女は突然仕事を休まれることをものすごく嫌うのだ。いや、正確には、突然でなくとも、休みを取られること自体を嫌がる。おかげで、有給を申請する際には最低でも2ヶ月前に許可を取らねば休ませてもらえない。だから今回、突然の入院となれば当然彼女からの叱責、または面罵は回避できないだろう。考えないようにすればするほど彼女のまるで般若そのもののような顔が頭にチラつく。ああ、何と言ったら怒らせずに済むのだろうか。憂鬱でしかない。

「、、、あ、、でも、、もしかしたら入院できないかもしれません、、、。」
熟考の末、私は上司に恐怖するあまり、思わずそう述べてしまった。が、しかし、言い終えるとすごくしらけた。
私は一体何故馬車馬のようにこき使ってくる会社に気を使わなければならないのか?
例え滅私奉公したとて給料が上がらなければ、報われる事もなく、ただただ疲弊するだけなのに。こんなゴミのような会社のために私は自分の身体を粉にし、犠牲にするのか。それってなんだかものすごく、馬鹿らしい。

「今は仕事よりも、自分の身体と赤ちゃんを大事にして。」先生は少しムッとしながら言った。
そして私はその言葉にハッとした。
そうだ、今私のお腹の中に赤ちゃんがいる。何にも代え難い赤ちゃんが。
私は絶対にこの子を、操を守らなくては。そのためにはやはり何よりもこの子の無事を優先すべきだろう。もう仕事なんてどうだっていい。

そう決意した私は先生に「わかりました。じゃあ明日から入院します。」と誓った。
ええいままよ。上司がなんだ。クソくらえ、だ。

すると先生はニッコリと笑い、「それじゃあ、一応赤ちゃんの状態を診てみましょう。」と言い、私を別室へ案内した。

私は、また操に会える-という喜びに打ち震えながら、案内された部屋のドアをノックした。

「こちらにどうぞ」部屋に入るとすぐに看護婦さんから促され、診察台に仰向けになる。
先生は少し遅れて登場。来るや否や、お腹にジェルを塗られ、その上からエコーの機械を当てられる。次の瞬間、モニターに映し出される我が子。この日も順調。心臓はいつも通りどくどくという音と共に動いており、操は当たり前のように生きていた。
私は喜々としてモニターに映る操を見つめる。
(今日も可愛い私の操ちゃん)

・・・・だが、じっと見つめる中、何か強烈な違和感があった。
(あれ?おかしいな。今日は操ちゃんの可愛いお顔が見えないな。モニターの映り具合が悪いのかな。まあここの病院古いし、モニターが故障でもしているのかな?)
最初は強く心に引っ掛かりを感じたものの、妊娠数週がもう14週目を迎えたという安心感と余裕から、私はひたすら馬鹿みたいに呑気でいた。

・・・・しかし、長い。
この日はいつになく診察が長かった。
エコーの機械は何度も何度も腹の上を行き来し、先生の鼻息は次第に耳につくほど大きくなっていった。
そんな状態に、私は何か良からぬ、不穏な空気を察知し、不安で先生の方をちらりと見やると先生はいつになく真剣な表情をしておられた。
(あれ?、、、、え?、、、もしかして、何か問題があるの、、、?)
そんな私の心の問いに答えるかの様に、先生は重い口を開いた。
「、、、、胎児の全身がむくんでいます。」

「、、、、、え?」

続く

続き